2018/10/04

実歴 阿房列車先生

実歴阿房列車先生 (中公文庫)
平山 三郎
中央公論新社 (2018-09-21)
売り上げランキング: 73,306
■平山三郎
巻末の編集付記によれば『実歴 阿房列車先生』は1965年1月に朝日新聞社より単行本が、1983年11月に「百鬼園先生 追想」の諸篇を増補した旺文社文庫版が刊行された。この中公文庫版は旺文社文庫版を底本としたが、巻末の年譜は割愛。2018年9月25日刊。
という理由から、本書は大きく二部構成となっている。

まあ、内田百閒ファン以外にはおすすめしない。

実歴阿房列車先生
これは、ヒマラヤ山系さんこと、平山さんから見た百閒先生の「実録」ということで非常に期待して読んだが、受けた印象としては8割がた、百閒先生の著作からの引用で、したがって百閒先生の読者からすると「それはもう知ってるがな」「百閒先生が書いていない、ヒマラヤ山系さんならでは、の新情報や視点で書いてくれはったら面白いのに」という感じ。特に前半が。
でもたまに知らないことが出てくるので、流し読みできない。
先生からの葉書・手紙の引用があるが、これがまた、カタカナ主体の文章で漢文調?というのか、ものすごーーーく難しくて読みにくい。途中からほぼ飛ばしてしまった。

雑俎
1「旅順開場」か「旅順入城式か」
当時の資料(芥川の感想コメントなど)によれば最初雑誌に載った時は「旅順開場式」だったが、それを平山さんが先生に指摘しても全然相手にしてもらえなかったというエピソード。もしかして、原稿では「入城」になってたのを雑誌が間違えた、とかあるかなあ。過去の記憶だから先生が忘れておられる、というニュアンスで書かれている。
2阿房列車走行粁数 その他
3べんがら始末
4「昇天」と「葉蘭」の嘘
5忘却す来時の道
6阿房の鳥飼
7阿房列車以後
8俳句のこと少少
9色紙・跋文・その外

百鬼園先生 追想
これは、先生が亡くなられて後に書かれた文章がほとんど。
掲載紙が違うため、同じエピソードが繰り返し出てくる。
「新幹線阿房列車」には以前、百閒先生の時代にもし新幹線があったら、とか感想で書いた気がするが、もろにそのネタを著者が想像されていたので思わず「!」。膝を叩いてにっこり笑い、という心持ちとなった。

蝙蝠の夕闇残し
窓辺のシャムパン
塀の外吹く俄風
百鬼園の鉄道 (新幹線阿房列車/列車時刻表/千里之門/汽笛一声
百閒全集刊行前後
日と月の詮索
百鬼園座談
百閒先生のレトリック
四谷の先生
百鬼園居は日没閉門

解説:酒井順子

2018/10/03

あの人とあの本の話

あの人とあの本の話
あの人とあの本の話
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瀧井 朝世
小学館
売り上げランキング: 275,183
■瀧井朝世
小学館の小冊子「きらら」に載せた新刊著者インタビュー(2008年9月号~)の中から68篇を収録した本。
2018年4月30日刊。
装幀はクラフト・エヴィング商會さんだ。

この本では新刊案内という記事の性格上、最新刊の宣伝の色はやはりあるけれど、作家個人にピンポイントでインタビューしての記事なので、それぞれの作家の考えていることなどがわかって、なかなか興味深い。
最初、ネタバレをおそれて自分が既読のものだけを拾って読んだらあまりにも少なくて、「紹介文」だから致命的なネタバレはないだろう、ということもあって、知らない作品、どころか、知らない作家の記事も読んだけど、単純に記事として、面白かった。それを受けて作品をすぐ読んでみよう、とはならないけれど、それはこちらの現在の状態が「フィクション」をあんまり読む気がしない、という時期だからであって、いずれ、なにかの機会に今回の読書が下地となって生きてくるのだろう。

全部で3章に分かれていて、それぞれの作家の「瀧井朝世」絶賛コメントが載せられているのがちょっと驚きだった。こんなんはじめてみたわー。どうなのかなあ。言われなくても本書を買うようなひとは皆瀧井さんが凄いことはわかってますけど……作家から見ても、このひとこんなに凄いだよ、好かれてるし、評価されてるんですよ、とわざわざ断るって、なんだかなあ。逆にまだ「知られてない」って出版社側が判断したってことかなあ。

登場作家(掲載順)
米澤穂信/伊坂幸太郎/森見登美彦/平山瑞穂/原田マハ/桜庭一樹/飴村 行/小島達矢/羽田圭介/篠田節子/島本理生/大崎 梢/朝井リョウ/朝倉かすみ/万城目 学/芦沢 央/辻村深月/津村記久子/藤谷 治/椰月美智子/西 加奈子/伊吹有喜/藤岡陽子/神田 茜/丹下健太/中脇初枝/平野啓一郎/奥田亜希子/竹宮ゆゆこ/佐藤多佳子/春見朔子/伊藤朱里/古川日出男/いしいしんじ/大島真寿美/小川洋子/青木淳悟/江國香織/西崎 憲/片山恭一/市川拓司/青山七恵/村田沙耶香/柴崎友香/中島京子/小野正嗣/宮内悠介/彩瀬まる/白石一文/角田光代/盛田隆二/森 絵都/吉田修一/誉田哲也/雀野日名子/松田青子/薬丸 岳/須賀しのぶ/野中 柊/朝比奈あすか/早見和真/似鳥 鶏/蛭田亜紗子/柚木麻子


2018/09/24

偏愛読書トライアングル

偏愛読書トライアングル
偏愛読書トライアングル
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瀧井 朝世
新潮社
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■瀧井朝世
本書は新潮社の小冊子「波」2010年4月号から連載中の「サイン、コサイン、偏愛レビュー」2016年5月号(第74回)掲載分までのなかから56回分を抜粋し、単行本としてまとめられたもので、脚注が加えられている。巻末に人名・作品名両方の索引あり。
2017年10月20日刊。

web本の雑誌「作家の読書道」をたまに読んでいるが、インタビュアーがいつもその作家をかなり熱心に読み込んでいることやその文面から伝わってくるスタンスが好きだなあと思っていた。しかしいつも基本的には質問を受けている作家側に興味があって読んでいたので間抜けな話、長い間、「誰がインタビュアーか」は気にしていなかった。「本の雑誌」の編集さんかなあとかぼんやり思っていたくらいだ。
意識したら「瀧井朝世」さんという名前がすぐにヒットして、これは雑誌のほうでもちらちら目にするお名前だったから、「ああ!」と頷いて、そう思ってネットをさまようとやっぱこのひと好きだわあ、という思いを深くした。

というわけで本書を購入したのだが、数ヶ月本棚に放置してしまっていた、のをこのあいだからようやく読み出し、「まえがき」と「目次」で既に「良い本だなあ……」としみじみ。あとは好きなところをアトランダムに開いて読む、というのを何度か繰り返し、気に入った回は複数回読んだりして、随分時間がかかったがようやくほぼ読了した。ほぼ、というのは、扱われている作品によっては、興味がわかなくてあんまりちゃんと読んでいない部分もあるからです。

題名に「トライアングル」とあるように、基本的には1回の連載で3冊の本の紹介がされている。
そのときの最新刊だけではなくて、昔読んだ本も普通に上げられているので、新旧入り混じって、その回のテーマに沿った、著者が「偏愛」している作品が紹介されている。
最近の話題書ももちろんたくさん出てくる、というか近著の方が割合は多いんだけど、たまに例えば安部公房『壁』とか3冊目に挙げられると、十代の頃の読書経験をこちらも思い出して、なんだか著者と一緒に追体験をしているような、懐かしいような、同士の様な錯覚を覚えて楽しいのだ。

書籍化されてわたしが買うような書評集というのはまあだいたい宣伝色は感じないけども、本書はそんなこんなで「商売主義の、宣伝!」色が本当に無くて、瀧井さんの良い所(本が好きな愛情が伝わってくる熱心さ)が思う存分発揮されていて、本当に読んでいて気持ちがよい。
たまに、もう入手不可能な作品もあるが、それは、昨今の流通の厳しさも原因のひとつ、というふうなことが書かれていて、確かに昔は「文庫」になったらそうそう簡単には絶版にはならない保証があったみたいだけど、もうそんなものは10年、いや20年くらい前から通用しなくなってるもんなあ。

それにしても本書の書影を最初に見たときに、「書評集なのに、何故猫推し…」とちょっとだけ不思議に思ったものだけれども、本書を最後まで読めば(特に「あとがき」)その理由が書いてある。

【目次】は新潮社の該当書籍の紹介記事で見ることが出来ます。

2018/09/15

吉村昭の平家物語

吉村昭の平家物語 (講談社文庫)
吉村 昭
講談社
売り上げランキング: 6,395
kindle版
■吉村昭
本書は2001年10月講談社刊の『吉村昭の平家物語 全一冊』を改題し、2008年3月講談社文庫として刊行されたものの電子書籍版だが、解説等は収録されていない。

読了後、ネットを散見していると、本書は同著者が手掛けた少年少女古典文学館「平家物語」をもとに再編集したものであるらしい。
原文にほぼ忠実だが、編集部から指定された分量にまとめるために削られたところがあるらしい。
kindle版で総ページ6034だから、本当にコンパクトにまとめられている。

昔古典の授業で習ったくらいで、あとは有名なエピソードを聞き齧った程度。
一度「通し」で読んでみたいな、くらいの興味だったわたしには大変わかりやすく、読みやすい良書だった。著者が吉村昭だという信頼感もあるし。
入門編としては、ぴったりだろう。
しかし基本的には「あったこと」を淡々と書いてあるので、現代の小説を読み慣れた身には「そこでそのひとはどう思ったの?」「どういう会話が交わされたの?」をもっと深く突っ込んで知りたい、と思ってしまうシーンがいくつもあった。死とか、別れとか、情とか絡むシーンでは特に。
しかし吉川英治の『新・平家物語』は全16巻もある……。

以前、吉川英治の『三国志』を読んだときに、首を切りまくっていたので「大陸的だなあ」と思ったものだが、これは間違った感想だった。
本書を読んだら日本でもこういう戦の場合は首を切って自分の大将に見せて報告するというのが当たり前で、考えてみれば、「確かに相手をしとめました」という紛れもない証拠ってこれ以上のものは無いものね。
だから「もう逃げられない」「負ける」とわかったら自分で腹を切って、部下に「首を見つからないように隠してくれ」と頼んだりする。本書では、埋めたり、川に重しをつけて沈めたりしていた。
晒し首とかもよく出てきて、町のひとたちも見物に行っている。怖くないのかなあ。

それにしても皆、よく泣く。
試しに「泣き」「泣い」で本書を検索すると101回、「涙」が117回と出た。

殺されたり身内が死んだりして泣いているのはわかるが、敵を殺しに行って、相手の身内が泣いているのを見て泣いていたりするから見逃してやるのかと思ったらそんなことは決してしない、のがなんだかなあ。このパターン、何回も出てきた。

そういえば平家物語って書かれたものでもあるけど、なんでこんなに広まったかって、琵琶法師の「語り」だったんだよね。つまり「物語」として面白くて当然で、リアルに語って聞かせてるから泣くシーンも多くなるのかな、なんてことを考えたり。
『耳なし芳一』もお坊さんが平家の亡者に知らず語って聞き手が泣いていたなあ。

そしてこれも読後、他にないかなと調べていたら、これぞ! 琵琶法師の語りを現代風に素晴らしい訳で再現したものが出ていた。
冒頭数ページ試し読みが出来たので読んでみたが、これは物凄く面白そうで、先のわたしの欲求も充たされそうだ。しかも訳者が古川日出男、とこれも信頼感抜群だし。
その労力的に当然なのだが、お値段がまあまあ張るので、ううむ高いなあ、そこまで平家物語に愛はないんだけどなあ、どうしましょう、と、保留中。

平家物語 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09)
古川日出男(翻訳)
河出書房新社
売り上げランキング: 89,719